日経BP社のニュースリリース

 

2008年3月21日


2008年「日経BP技術賞」決定
大賞に「ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立」


 日経BP社主催の2008年(第18回)の「日経BP技術賞」がこのほど決まりました。

 本賞は日経BP社がわが国の技術の発展に寄与する目的で創設したものです。毎年1回、電子、情報通信、機械システム、建設、医療・バイオ、エコロジーの各分野で、産業や社会に大きなインパクトをもたらす優れた技術を表彰します。

 今回は2007年に注目された技術の中から、審査委員会(委員長:田中昭二国際超電導産業技術研究センター副理事長)が、以下の大賞と部門賞を選出しました。
 大賞は、京都大学 山中伸弥研究室の「ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立」に決まりました。 このほか11件の部門賞を決めました。

 表彰式は4月4日午前11時から東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で行います。


〈大賞〉

▼ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立
京都大学 山中伸弥研究室 
(代表)
 山中 伸弥 京都大学 物質‐細胞統合システム拠点
  iPS細胞研究センター センター長
  京都大学 再生医科学研究所 再生統御学研究部門
  再生誘導研究分野 教授


 2006年にマウス線維芽細胞で成功していた人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に、ヒト線維芽細胞でも成功した。iPS細胞は、無限に増殖でき、しかもあらゆる臓器や組織になる可能性を秘めている。山中教授のグループは、マウス体細胞をiPS細胞に戻した4つの因子、「OcT3/4」「Sox2」「c-Myc」「Klf4」をヒト由来の線維芽細胞株「HDF-S1c7a1」に導入して培養し、5万個の線維芽細胞から、25日ほどで10のヒトiPS細胞の塊(コロニー)を得た。また、がん遺伝子である「c-Myc」を使わずにiPS細胞を作製することにも成功した(移植臓器・組織ががん化する危険を避けることができる)。2006年のマウス線維芽細胞からのiPS細胞樹立で、日経BP技術賞の部門賞を獲得していたが、2007年にヒト細胞で成功したことで、発生生物学の基礎研究から再生医療などの応用まで、一気に展望が開けた。

〈部門賞〉

◇電子部門


▼テレビとしての課題を克服し、11型で製品化を実現した有機EL技術
 占部 哲夫 ソニー株式会社 ディスプレイデバイス開発本部 本部長
 白石 由人 ソニー株式会社 テレビ事業本部 E事業開発部 統括部長
 楠田 公明 ソニー株式会社 AD事業開発室 室長
 藤富 和良 ソニーイーエムシーエス株式会社 稲沢テック テックプレジデント

 これまでの有機ELは、輝度が150カンデラ(cd)/平方メートル程度と暗く、輝度半減寿命も1万5000時間と短かったため、テレビに採用することが難しかった。今回、TFT基板と反対側に光を取り出す構造を採用し、光利用効率を高めることで、600カンデラ/平方メートルのピーク輝度と3万時間の長寿命を両立した。さらに、広色域を実現するために、カラー・フィルターと多重反射を利用する新構造も導入した。低温多結晶SiTFT基板とマスク蒸着という既存の生産技術を活用し、性能とコストの条件を満たすことで世界初の有機ELテレビの製品化に漕ぎ着けた。

▼ステンレス鋼板を超える放熱性を備えたバイオ・プラスチック
 中村 彰信 日本電気株式会社 ナノエレクトロニクス研究所 主任
 位地 正年 日本電気株式会社 ナノエレクトロニクス研究所 主席研究員
 平野 啓二 日本電気株式会社 ナノエレクトロニクス研究所 所長付

 植物由来という環境に優しい特徴と、ステンレス鋼板を超える放熱性を兼ね備えた「バイオ・プラスチック(植物性樹脂)」を開発した。機器の筐(きょう)体などに用いれば、チップや各種部品から生じる熱を筐体表面から放熱できる。熱伝導性に優れる炭素繊維とポリ乳酸、炭素繊維同士を結び付ける結合材(アミド化合物)を組み合わせ、炭素繊維が樹脂内で網目状のネットワークを構築し、炭素繊維同士が重なって高い放熱性を示す。炭素繊維を10%添加した時の放熱性はステンレス鋼板並み、30%添加した時はステンレス鋼板を超える。

◇情報通信部門

▼世界最速を記録したベクトル型スーパーコンピュータ「SX-9」
 丸山 好一 日本電気株式会社 執行役員常務
 伊藤 行雄 日本電気株式会社 執行役員
 山元 正人 日本電気株式会社 コンピュータソフトウェア事業本部 事業本部長
 赤津 素康 日本電気株式会社 コンピュータソフトウェア事業本部
 第一コンピュータソフトウェア事業部 事業部長
 西川 岳  日本電気株式会社 第一コンピュータ事業本部 事業本部長
 野口 孝行 日本電気株式会社 第一コンピュータ事業本部
 コンピュータ事業部 事業部長

 システムの最大性能を前機種「SX-8」の約13倍に相当する839テラ・フロップスまで引き上げた。これは、世界で利用中のスパコン・ランキング「TOP500」の第1位に対して1.6倍に相当し、2004年6月まで世界トップだった「地球シミュレータ」の約20倍となる。これを実現するために、演算性能102.4ギガ・フロップスの専用プロセッサーを新たに開発し、基盤となるプロセッサーとメモリーやノード間の接続バスの速度も高速化するとともに、消費電力の低減にも取り組み、性能当たりの消費電力を前機種の3分の1以下に抑えた。

▼無線LANアクセス・ポイントのビーコン信号を利用する位置推定技術「PlaceEngine」
 暦本 純一 株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
 インタラクションラボラトリー室長
 東京大学大学院 情報学環 教授
 クウジット株式会社 取締役
 末吉 隆彦 クウジット株式会社 代表取締役社長
 塩野崎 敦 クウジット株式会社 取締役CTO

 公衆無線LAN接続サービスや個人宅、企業などの無線LANアクセス・ポイントが発しているビーコン信号を利用してユーザーの現在位置を推定する。無線LAN機能を内蔵しているノート・パソコンがあれば、特に別のデバイスを追加しなくても位置情報の取得が可能になり、GPS(全地球測位システム)の衛星を捕捉しにくい屋内などでもアクセス・ポイントがあれば位置を取得できる。

◇機械システム部門

▼耐熱性を向上したポリ乳酸「ステレオPLA」
 栗原 英資 帝人株式会社 新事業開発グループ HBM推進班長
 豊原 清綱 帝人株式会社 新事業開発グループ HBM推進班
 鳥屋尾 学 帝人ファイバー株式会社 加工技術部 インテリア開発チーム統括
 立花 圭 帝人ファイバー株式会社 繊維技術開発部 長繊維技術開発課

 ポリ乳酸(PLA)には、光学異性体であるL体ポリ乳酸とD体ポリ乳酸がある。このL体とD体を対に組み合わせて結晶化(ステレオ・コンプレックス)し、結晶を密にすることで、L体のみからなる一般的なPLAに比べて、耐熱性(融点)を約50度高めた。これまで自動車部品などにPLAを使うには、その耐熱性の低さが問題視されていたが、今回、L体とD体の結晶をコンスタントに造れる技術を確立したことで、PLAの適用範囲を拡大できる。すでにマツダの水素エンジン車に適用されるなど、実績を広げつつある。

▼内部欠陥の少ない大口径炭化ケイ素(SiC)単結晶ウエハーの製造
 巽 宏平 新日本製鉄株式会社 先端技術研究所 新材料研究部長
 星野 泰三 新日本製鉄株式会社 先端技術研究所 新材料研究部 主幹研究員
 大谷 昇 新日本製鉄株式会社 先端技術研究所 新材料研究部 主幹研究員
 藤本 辰雄 新日本製鉄株式会社 先端技術研究所 新材料研究部 主幹研究員
 勝野 正和 新日本製鉄株式会社 先端技術研究所 新材料研究部 主任研究員
 柘植 弘志 新日本製鉄株式会社 先端技術研究所 新材料研究部 主任研究員
 中林 正史 新日本製鉄株式会社 先端技術研究所 新材料研究部 主任研究員

 パワー素子などへの応用が期待される炭化ケイ素(SiC)は、製造過程で直径1〜3マイクロメートル程度の中空貫通部で、通電不良の原因となる「マイクロパイプ」と呼ばれる欠陥部を生じる。そのため実用化されているSiC単結晶ウエハーは、2〜3インチ(51〜76ミリメートル)口径に留まっていたが、コンピュータ・シミュレーションなどを利用して、SiC粉末を昇華させ、るつぼの構造や結晶成長時の温度分布、昇華蒸気の移動経路を最適化し、さらに「マイクロパイプ」の分解や消滅を促すように成長条件も最適化したことで、高品質で大口径(100ミリメートル)のSiC単結晶ウエハーを実現した。

◇建設部門

▼「E-ディフェンス」の建設技術と、これを用いた実大震動実験
 片山 恒雄 東京電機大学 未来科学部建築学科 教授
 (独立行政法人防災科学技術研究所 前理事長)
 中島 正愛 独立行政法人防災科学技術研究所
 兵庫耐震工学研究センター センター長
 山元 弘幸 三菱重工業株式会社 下関造船所 機械部 部長
 坂本 功 慶應義塾大学 理工学部システムデザイン工学科 教授
 壁谷澤 寿海 東京大学 地震研究所 地震火山災害部門 教授
 時松 孝次 東京工業大学 理工学研究科建築学専攻 教授

 防災科学技術研究所が建設した世界最大の実大・3次元震動破壊実験施設。震動台の大きさが15メートル×20メートルで、最大1200トンの建物に、水平方向900ガルの加速度を加える性能を持ち、阪神大震災の揺れを再現できる。文部科学省の「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」では、鉄筋コンクリート造建物、木造住宅、地盤流動化などの実物大の構造体を破壊する震動実験を実施した。実際の建物が地震で倒壊する過程を確認することは、現行耐震設計の信頼性に対する究極の検証といえる。

▼2本のトンネルを地中で接合する「太径曲線パイプルーフ工法」の実用化
 山田 淳 首都高速道路株式会社
 東京建設局新宿工事グループ 総括マネージャー(所長)
 林 昇 鹿島建設株式会社 東京土木支店第三土木統括事務所
 中央環状品川線五反田出入口工事事務所 所長
 深澤 裕志 大成建設株式会社 北信越支店
 柏崎刈羽原子力その2工事作業所 作業所長
 澤木 康守 鉄建建設株式会社 東京支店 地下鉄大手町作業所 葛西詰所 所長
 山本 善久 コマツ 大阪工場 地下建機事業室 アイアンモール設計課 主任技師

 あらかじめ構築した並行する2本のシールドトンネル間の上下に、シールドトンネル内から直径約800ミリメートルの円弧状の鋼管で曲線パイプルーフを構築し、鋼管同士のすき間の地盤を凍結した後に、シールドトンネル内からトンネル間を非開削で切り広げる。その際に土圧を支えるための仮設材を設ける必要がない。首都高速中央環状新宿線・富ケ谷出入り口トンネルの工事で初めて採用された。

◇医療・バイオ部門

▼遺伝子組み換えヒト血清アルブミン
 大谷 渡 田辺三菱製薬株式会社 研究本部 先端医療研究所
 先端医療研究部 バイオCグループ グループマネジャー
 大井 英之 田辺三菱製薬株式会社 研究本部 先端医療研究所
 シーズ探索研究部 標的探索Cグループ グループマネジャー
 大屋 智資 田辺三菱製薬株式会社 研究本部 先端医療研究所
 先端医療研究部 バイオBグループ 主任研究員
 鷲見 昭典 株式会社バイファ 千歳工場 工場長
 小林 薫 こばやし耳鼻咽喉科 理事
 (前三菱ウェルファーマ株式会社 研究本部)

 遺伝子組み換えアルブミン製剤はこれまで抗体や血液凝固因子などに比べて価格が安いために、製剤を開発してもコストが見合わないとされてきたが、8万リットルという主培養槽を用いた大量培養技術と99.9999996%という精製カラム技術を用いることで、製品化に漕ぎ着けた。アルブミンの補充を目的とするアルブミン製剤として承認を受けるのは世界で初めて。メタノール資化性酵母「Picha pastoris」を宿主に利用している。

◇エコロジー部門

▼炭素繊維複合材料の革新的な高速加工技術
 北野 彰彦 東レ株式会社 複合材料研究所 所長
 和田原 英輔 東レ株式会社 複合材料研究所 研究員
 山口 晃司 東レ株式会社 複合材料研究所 研究員
 武田 一朗 東レ株式会社 複合材料研究所
 関戸 俊英 東レ株式会社 コンポジット開発センター 所長
 山崎 真明 東レ株式会社 コンポジット開発センター 部員

 炭素繊維複合材料(CFRP)は、有力な軽量素材として航空機の機体への導入が急速に進んでいるが、「オートクレーブ」という高温高圧の釜で圧着乾燥させる工程があり、その成型に時間がかかることが最大の課題となっていた。東レは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて、「オートクレーブ」を使わずに、繊維に熱硬化性樹脂を流し込むだけで高速成型できる技術を開発した。自動車のドア・パネルを成型する場合、従来の技術では160分かかっていたが、開発した技術を用いれば約10分で成型できるようになる。今後、自動車産業などで活用できるメドが立った。

▼3層で高効率化したトリプル型薄膜太陽電池
 早川 尚志 シャープ株式会社 ソーラーシステム事業本部
 薄膜事業推進センター 技術開発室 室長
 近藤 雅文 シャープ株式会社 ソーラーシステム事業本部
 薄膜事業推進センター 技術開発室 副参事
 奈須野 善之 シャープ株式会社 ソーラーシステム事業本部
 薄膜事業推進センター 技術開発室 主事
 石河 泰明 シャープ株式会社 ソーラーシステム事業本部
 薄膜事業推進センター 技術開発室 主事
 武田 徹 シャープ株式会社 ソーラーシステム事業本部
 薄膜事業推進センター 技術開発室 主事
 谷村 泰樹 シャープ株式会社 ソーラーシステム事業本部
 薄膜事業推進センター 技術開発室 担当

 CVD(化学的蒸着)法によってシリコン薄膜を形成させる「アモルファスシリコン型太陽電池」は、バルク(塊)型の結晶シリコン太陽電池に比べて、シリコン利用量が少なく、量産による低コスト化も可能で、次世代太陽電池の主流になる可能性が高いといわれているが、変換効率の低さが課題となっていた。ここ数年、シリコン薄膜を2層(タンデム)化して効率を上げる技術が実用化され始めているが、シャープは3層(トリプル)化で実用化を達成し、変換効率も10%を超えた。将来的にバルク型太陽電池と並ぶ可能性もある。また、1キロワット当たりの発電コストを購入電力並みに引き下げるメドもついており、補助金なしでも太陽電池が普及する可能性が出てきた。



【審査委員】(敬称略)

審査委員長
 田中 昭二  国際超電導産業技術研究センター副理事長

審査委員(五十音順)
 大石 道夫  かずさディー・エヌ・エー研究所所長
 岡田 恒男  日本建築防災協会理事長/東京大学名誉教授
 川島 一彦  東京工業大学大学院理工学研究科教授
 木村 文彦  東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻教授
 小林 繁夫  東京大学名誉教授
 後藤 滋樹  早稲田大学理工学部情報学科教授
 櫻井 靖久  東京女子医科大学名誉教授
 鈴木 基之  放送大学教授
 中川 正雄  慶應義塾大学理工学部情報工学科教授
 中野 栄二  千葉工業大学総合研究所教授
 永井 良三  東京大学大学院医学系研究科教授
 永田 勝也  早稲田大学理工学部機械工学科教授
 西村 吉雄  早稲田大学客員教授
 福手 勤     東洋大学工学部環境建設学科教授
 水野 博之  大阪電気通信大学副理事長
 安田 浩     東京電機大学未来科学部教授
 山本 良一  東京大学生産技術研究所教授

 ※受賞者および審査委員の所属・肩書きは選考時点のものです

日経BP社コーポレート管理室・広報

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